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淫獄の救世主 第二話

「…………」

 刀華は硬いベッドの上で目を覚ました。
 なにやら生臭い匂いが自分の体からするが、暖かなシーツが覚醒を阻害する。
 ドロドロとした睡魔に身をまかせよう。その甘美な誘惑に引きずられかけたが―――。

「……っ!? そうだ、わたしはあの兵士たちに負けて。……どこだ、ここは?」

 刀華は飛び上がるようにして起き上がり、急いであたりを見渡す。
 白い石灰石のような材質でできた部屋、一つしかないひび割れた窓。

 ずいぶんと古い家らしい。地震でも起きたら一発で壊れてしまいそうだった。
 ベッドの隣にはサイドテーブルがあり、その上に刀華の着ていた制服がきちんと折りたたまれていた。
 
「って、これわたしの制服!? じゃあ、今わたしは?」

 刀華はシーツの下、自分の姿を改めて見下ろした。
 全裸。すっぽんぽんであった。

「〜〜〜!?」

 刀華は真っ赤になって、素早く服を身につけていった。しっかり洗濯してくれていたようで、汚れ一つなかった。
 どうやら自分をここに運んでくれた人はいい人みたいだ。
 しかし、刀華は自分の身につけたものの中に、肝心のものがないことに気がついた。

「ブ、ブラとショーツがない!」

 夢中になって、半ば無意識で制服を着ていたので、その最中には気がつかなかったのだ。
 今刀華はノーブラノーパン。
 ちょっとでも風が吹けば、そのプリンプリンとした尻が丸見えになってしまう状況。
 スースーする股間と、動けば擦れてしまう乳首に、刀華の顔はより一層赤くなかった。
 そして―――。

「あら、気がついたのね?」

 扉から女の声がした。
 はっと見ると、20代前半くらいの女性が廊下から顔を出していた。
 真面目そうな目鼻立ち、やはり欧州系の顔をしていて、髪の色は茶色、目はグリーンだった。
 黒のロングスカートに『べーカリー』と書かれたエプロンを羽織っている。
 どうやらパン屋さんのようだった。

「目だった外傷はなかったから、医者にも見せてないんだけど。もしかしてまだ体痛む?
 ちゃんと記憶はある?」

「い、いいえ。もう大丈夫です。わたしの名前は柿崎刀華と言います。
 助けてくださったようで、どうもありがとうございました」

「やだ、そんな堅苦しくしないでいいのよ。もっと普通に話して。
 ……えっと。じゃあ、刀華さん、でいいのね?」 

「え、ああ。刀華で構わない。それで、あなたは……?」

 女性はニコニコ笑いながら言った。

「私はエフィー。見ての通りパン屋さんよ。二ブスレイで一番美味しいって評判のね」

「二ブスレイ……?」

「今あなたがいる町が二ブスレイよ。カルドスレイ帝国の西の端。エルフ族との国境の盆地に位置しているわ」

 エルフ?
 今エルフと言ったか。
 カルドスレイ帝国なんて国も聞いたこと無いし、やはりここは刀華がいた世界とは全く異なる世界なのだろう。

「もしかして、この世界には魔法ってあったりするのか?」

「? もちろんあるわよ」

「あなたも使えるのか?」

「初級ならね。ほら」

 エフィーは指先から、小さなライターくらいの炎を出してみせた。
 間違いない。異世界は異世界でもここはファンタジー世界のようだ。
 もしかしたら刀華をこの世界に引きずり込んだのも、その魔法の力なのかもしれない。
 じゃあ、魔法のことを調べていけば何かわかるかも……。

「何を驚いてるのよ。あなただって練習すれば使えるようになるものよ」

「すまない。わたしは、その、この国のことは何も知らなくて。できれば情報が欲しいんだが……」

「へぇ。フフ。やっぱりあなた戦乙女さんなんだね」

「戦乙女?」

「ええ。違う世界から来た女性を、帝国では古くからそう呼ぶの。
 なんでも凄く強かったり、誰も知らないような高度な知識を持ってたりするから」

「わ、わたしの他にもこの世界へ来た人間がいるのか!?」

 刀華は勢い込んで聞いてみた。
 エフィーの肩をがしっと掴み、激しく揺すってしまう。

「ああっ。お、落ち着いて、落ち着いてったら」

 エフィーが震える刀華の肩をそっと抱きしめた。
 やはり刀華もまだ少女。いきなり見知らぬ世界へ飛ばされ、兵士と戦闘し負けた。
 不安で、怖くて、どうしたらいいかわからなくて。
 今まで正常な精神でいれたのが奇跡のようだった。

「うん。あなたも気持ちはわかるわ。けどまずは冷静にね。
 この世界のことなら何でも私が教えてあげる。この町で生きる術も私が考えてあげるから」

 見ず知らずの他人の優しさがここまで身に染みるものだとは思わなかった。
 少し目が潤んできてしまう。

「エフィーはどうしてそんなに優しいんだ? わ、わたしのような見ず知らずの者に……」

「あ、それは簡単。帝国の伝説では戦乙女は民の味方なの。
 出会ったら親切になさいって子供の頃から教わってきたもの」

「そうだったのか。だが、それでも感謝する。エフィー、あなたが何か困っているなら、わたしも力になろう」

「あはは。おおげさね。でもありがとう。期待しておくわ。
 とりあえずお腹すいてるでしょ。出来立てのパンがあるの。一緒に食べましょう」 

 屈託なく笑うエフィー。
 ここにきて刀華は確信した。この女性は自分の味方なんだと。
 この世界に来て、刀華が初めて安心した瞬間だった。

「あの……もちろんお腹はすいているのだが、その。わたしのブラとパンツはどこへ?」

「ごめんなさい。あなたが倒れていた場所の近くにはなかったわ。下着は私のを貸してあげるから」

「エフィーの?」

 女同士とは言え、下着の貸し借りは抵抗がある。
 少し驚いてエフィーを見ていると、懐からなにやら紐のようなものを取り出した。

「はい、どうぞ」

「えっ、なにこれ!?」

 なんと刀華に渡されたものの一つは、まるで紐のような下着で、
 ブラもショーツも、少し動いただけで全部丸見えになってしまうような品物。
 っていうか、これでは下着としての機能を成し得ていないではないか!
 
 そして次は黒のガーターベルト付きの下着。
 なんとこっちは乳首とお○んこの部分、合わせて三つに丸い穴が開けられ、切り取られている。
 さらにいやらしいことに、ショーツにはお○んこの穴に向かって→が描かれ、
 『COME ON!』と男のペニスをねだるような文句が書かれていた。

「え、エフィー、これはあなたの趣味なのか?
 貸してもらう身ではあるが、もっとまともな下着はないのか?」 

「ごめんなさい。この町は物流が少しおかしいの。
 まともな下着はすごく高価で、こういったいやらしい下着の方が安く大量に出回っているような町だから」

「……そんな」

 刀華は結局黒のガーターベルト付きの下着を選んだ。紐ではあまりに頼りなさそうだったからだ。
 このさい背に腹はかえられぬ。
 おかしな世界に来てしまったと、この時刀華はつくづく思った。
 








「ふーん。日本ねぇ。聞いたことないわ、そんな国。まずこの世界にはないと思って間違いないわね」

 刀華はエフィーからダイニングルームで昼食をご馳走になっていた。焼けたばかりのパンとちょっとした干し肉だ。
 すごく質素な料理だったが、それでも丸一日何も食べていない刀華の腹にはご馳走だった。
 
「なるほど。刀華はその日本って国から、この世界へ飛ばされてきた、と。そしてどうにかして帰りたいってわけね」

「ああ」

「多分魔法の力で間違いないと思うけど、私は専門家じゃないからちょっとわかんないなぁ。
 そこらへんはおいおい調べるとして、まずは当面の身の処し方を考えないと。
 とりあえず『怪類憐れみの令』の説明をする前に、モンスターについて教えてあげるわ。
 あっ、何か刀華から質問はある? この町のことでいいなら何でも教えてあげるわよ」

「…………うーん」

 エフィーの話を聞く限り、こちらの世界と日本に、
 魔力によって何らかのリンクが発生したらしいけど、その理屈はちんぷんかんぷんだった。
 どうやってここに召還されたのか。どうやって帰れるかも当然わからない。
 当分この世界で暮らしていくしかなさそうだった。
 
 しかし、この世界の、特にこの町は凄く特殊だそうで、
 「こんな場所に飛ばされるなんて、刀華は最悪に運が悪いわ」
 とエフィーに気の毒がられてしまった。
 どうやら凄く住みにくい町のようだ。
 確かに窓から町を覗くと、お世辞にもあまり綺麗な町とは言えなかった。
 宿屋の名を騙った娼館が何軒かあり、露店には食料品の他に、堂々とバイブやローターなどの、
 いやらしい道具が売られている。中世くらいの文化レベルのはずなのに、エロいことに関しては最先端をいっている。
 なんとも不思議な世界だった。

 中でも刀華を驚愕させたのが、町にモンスターが普通に闊歩していることだった。
 普通刀華がやってきたRPGの町では、人間の住む世界と魔物の住む世界は分断されており、
 フィールドに出るとエンカウントするシステムだ。
 
 この世界はどういうところなんだろう?
 エフィーはこの町でどのように生活しているのだろう? 
 疑問が次々に浮かび上がってきた。 

「そうだな。まずはエフィーがどうやってこの町で生活しているのか。この点を聞かせて欲しい」

 しかし、その疑問は一笑されてしまうようなもだったらしい。

「ふふふ。私がどうやって暮らしているかですって?
 刀華ったらおかしい。別に普通に働いて、お金を稼いでいるだけよ。
 起きて働いて寝て。基本的な生活サイクルは、どこの世界も一緒だと思うけどね」

「そ、そうなのか?」
 
「この世界で生きる上で、まず知っておかないといけないことは―――モンスターの生態についてね」

 エフィーがここで初めて表情を曇らせた。
 まるで何も知らない妹との会話を楽しんでいる風だった彼女が、どうしていきなり悲しそうな顔をしたのか刀華にはよく分からなかった。
 
「この世界にはね、人間とは別にモンスターが生活しているの。それはもう話したっけ?」

「ああ、うん」

 町に明らかに人間とは違う変わった生物がいるし。
 
「はい、これ。モンスター図鑑。十年前のものだから新種は載ってないけど、基本的な魔物は学べるはずよ」

 エフィーが渡してきたのは、薄い絵本みたいなものだった。
 ところどころ破れており、埃だらけで黒い染みができ、読めない字がかなりあった。
 表紙を見ると、『モンスター辞典』とオドロオドロしい字で書かれている。
 この本は子供から大人まで幅広く読まれている、言わばこの世界で生きるためのHOWTO本らしい。

 刀華はページを捲っていった。
 薄い本なのに、モンスターの身体的特徴、およびその好物にいたるまで、幅広く載っていた。
 しかし、刀華を驚かせたのはそこではない。
 モンスターの生殖方法についての文量が多く、なんとモンスターと人間の女がSEXしている絵まで描かれていた。
 これはエロ本ではないのか?

「刀華、真剣に読みなさい」

「え、エフィー……」

 改めてエフィーの表情を見るが、その表情は固く冗談を言っているようには見えなかった。
 刀華は言われた通り、真剣に本に目を通してみる。

『ゴブリン』 
       亜人種。平均身長90cm。醜い猿のような顔をした耳の長い小人。
       モンスターの中では比較的知能が高く、なんと家族というコミュニティが存在し、社会性を持つモンスター。
       ほとんどがオスで人間の女を好んで犯し、孕ませようとする。一度犯した女は巣に持ち帰り、ハーレムを作ろうとする。
       人間の卵子との受精率は低く、そのため何度も犯して自分の精子を子宮へ送ろうとする。


『アメバス』
       超巨大単細胞生物。ブヨブヨした水のような体のモンスター。
       知能は全く無く、ただ本能のまま、寝る・食う・繁殖する、を繰り返す。
       基本単体で行動し水場に生息。あたりと同化して敵を油断させ、いきなり襲いかかる。
       繁殖方法としては、メスの体内に産卵管を挿し込んで、何万個もの卵を膣に産みつける。
       その後もう一つの触手で精液を流し込み受精させるのだ。 
       受精率は非常に高く、卵からかえった子供の成長も早い。妊娠して三日も経たないうちに出産させられる。
       このようにかなりの繁殖能力を誇っているので、帝国内ではゴキブリと蔑む者もかなりいる。


『ファックハウンド』
           発情犬。魔物と犬との間に生まれたミュータントモンスター。
           犬のメスよりも人間の女との交尾を好む。知能はそこそこ。群れを形成し、集団で狩りをする。
           そのサイズは様々で、小型中型大型と、たくさんの種類が存在する。
           大型になるほど気が荒く攻撃力が高い。小型になるほど気が弱く早漏のようだ。
           女を見るととにかく背後から覆いかぶさって腰を振る。戦闘中でも生殖器は肥大化したままで、かなり動きの邪魔をしている。
           人間の卵子との受精率はそこそこ。凄まじいほどの精液の量で、女を翻弄する。

『スペルマドラゴン』 
           精液集合体。魔物の大量の精液が魔法の力で生命を得て、ドラゴンの姿を真似するようになったもの。
           知能はなくただひたすら受精のために行動する下等生物。
           大きな外見のわりに力が弱くスピードも遅い。だからドラゴンの姿を真似して相手を威嚇しているのではないか?という説もある。
           物理攻撃は効かず、切っても叩いても分裂してしまう。魔法攻撃で一気に殲滅することがお勧め。
           繁殖は女を触手で絡めとり自分の体内に取り込む方法をとる。女を精液塗れにして口、肛門、膣と三点攻めにしてしまう。
           スペルマドラゴンと交尾した女性はほぼ確実に妊娠し、その子がどの種のモンスターになるかは産んでみないとわからない。



 刀華がそこまでページを捲ったあたりで、エフィーがパチンと手を叩いた。

「はい。とりあえずはそこまで。この西区近辺にいるモンスターはそいつらくらいだから。
 たまにもっと上位種も出てくるけど、このあたりではそうそうお目にはかからないわ」

「……あ、あの。エフィー……、これって」

 モンスターの説明はよく分かった。絵もちゃんと具体的に書かれており、それぞれ特徴がよく理解できた。
 しかし―――。

「なに? もっと図鑑読みたいの?」

「違う! その……モンスターが人間と交尾……。それに出産って!?」

「ああ、異世界人の刀華には過激過ぎたみたいね」

 生々しいモンスターと人間の性交を描く絵もあり、刀華は顔から火が出るのを必死に我慢していた。
 特に小型ファックハウンドと、人間の交尾を描いた図を思い出し、思わず鼻血が出そうになる。
 なんとチワワくらいの小さな可愛いモンスターだったのに、その股間に付いているものは凶悪で、なんと根から先っちょまで何十cmもあったからだ。
 犬のぬいぐるみが死ぬほど好きな刀華にとって、あの絵はショッキング極まりなかった。
 
「そ、それにしてもモンスターと人間って受精できるのか。出来たとしてどんな子供が生まれるんだ!? なんというおぞましい」

「はいはい。とりあえずモンスターの恐ろしさはよくわかったと思うから、『怪類憐れみの令』について説明するわね」

 エフィーは一年前にこの町に施行された愚劣な法律について語りだす。
 刀華はここで初めて彼女が悲しげな表情をしている理由がわかった。



「―――っ、ふざけるな! こんな馬鹿な法律があってたまるか!」

 モンスターと人間の共存。
 そんなことできるわけがない!
 エフィーの話を聞いた上で、これが素直な感想だった。

「そうは言っても、皇帝陛下の御命令だしね。もうこの法律が施行されてから一年になるわ。今ではモンスターがこの町の主よ」

「そ、そんな……」

「町のほとんどの男は、女とセックスすることができないように去勢され、ただの労働力としてモンスターの支配下に置かれたわ。
 女はモンスターが望むなら喜んで股を開かなきゃならない。
 町のあちこちには、モンスターの子を生むためだけの病院が建てられて、モンスター専用の豪邸やホテルまで出来たわ。
 みんな皇帝陛下が命令して建てさせたものだけどね」

「…………」

「人間の男の中にも、モンスター達に魂を売る輩が増えてきて、自らモンスターと同化して女を犯す連中もいる。
 毎日犯されないか孕まされないかって、私もびくびく怯えているわ。この町は……はっきり言って終わっているよ」

 エフィーが悔しげに唇を噛んだ。
 同じ女である刀華にもその恐ろしさがよくわかった。

「まさか……エフィーもモンスターに?」

「ええ。何度かね。出産もしてるわ。そうしないと生きていけなかったから」

「…………」

 『二ブスレイの巨大防壁』―――それは外敵から町を守るのではなく、住人とモンスタ―を強制的に一緒に生活させるための檻でしかなかったのだ。
 しかも刀華自身がこの町に入れられ、この法律の下、モンスターに襲撃されても手をだせないというのだ。
 こんな理不尽なことはない。

「この町の人間は、こんな馬鹿げた法律に唯々諾々と従っているのか!?」    

「……表向きはね。モンスターと町中で会ったら戦闘は絶対に避けて、屋内へ逃げるようにはしている。
 それでもかなりの人達が犠牲になってるみたいだけど」

「表向き? 裏があるのか?」

「ええ。解放軍のリーゼロッテ様が、一ヶ月前からこの町にいらっしゃるのよ。
 あのお方はモンスターに対抗する術を私達に教えてくださったわ。それはね―――っ!?」

 と、ここでいきなり扉がぶち破られた。
 そして外から醜い緑色の顔をした小人が姿を現す。
 小さな手には分不相応な大きな斧が握られており、そいつで鍵のかかった木製の扉を破ったのだ。
 
「キヒー! キヒー! 女! メス! 二匹も! いる!」

「ゴフッゴフ。犯して巣に持ち帰る!」

 ゴブリンだった。
 それも二匹も。
 刀華が近くにあった燭台を手に応戦しようとした。
 その時―――。

「駄目っ、刀華!」

 エフィーの悲痛な叫び声が耳に響いた。




第三話へ続く

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