淫魔との戦記
赤頭巾と白雪姫と堕ちる王国
<2>
―丸々一時間が過ぎた―
肉欲の宴が終わった。クズノハは憂鬱そうな表情だ。
シエル達は報告とレポートメモを転送することで今までの経緯を伝える。
『そうですか…妖狐の方々が淫魔に対抗できるとわかり、淫魔との戦闘記録をとってもらえるようにお願いしていたのですが…残念な結果となってしまいました。』
「淫魔は組織的にやったはずです!!!あれは侵略です!!!でなければ…妖狐がみな淫魔に変わるなんて…ありえません!!」
クズノハは息を荒げてルシフェルに言う。我を忘れての言葉は水晶の向こうの少女を少しおびえさせた。
「指揮をしていた淫魔もいました。おそらく間違いありません…」
あったこと全てを語られると、ルシフェルは少しうつむく。そして考えがまとまったのか顔を上げる。
『解りました。ありがとうございます。しかしまだ淫魔への対抗が出来ないのが現状です。
これからも研究をこれからもお願いします。』
ルシフェルは微笑み、彼女たちにやさしく凛々しく声をかけた。
とりあえず女王も欲求不満になるほど大変らしい。自分たちも頑張らねばなどと思う。
通信はそこで途絶えた。
さて、これ以降の方針を決めなければならない。
付近に淫魔の大群がいる。此処も結界はあるが安全とは言い難い。
「赤。当分私達を同行させていただけない?
貴女の側で調査するのが安全且つ効率的だと思うんだけど…どう?」
「別にいいぜ…ただし此処を拠点にさせてもらうからな。そんで当分動かねぇぞ?」
「妖狐の里に近い此処一帯も淫魔の拠点にされかねませんし…それでいいと思います。」
安全と言い難い故に研究にしろ、撃退にしろ、暇な時間さえあれば簡単に進むだろう。問題は自分たちが危険な目にあうことだけだが、恐怖に勝る好奇心と覚悟があった。
結局朝が来るまで三人は起きていて、寝たのは陽が昇りきってから。それから起きたのは昼過ぎだった。
「これから俺の仲間を紹介してやるよ。今この町でポーション作って生計立ててる。」
宿屋で昼ご飯を終わらせると、赤が言うと二人を相棒がポーションを作っているという場所へ案内するという。
町は時間的に昼時のせいか静かだった。子供達の姿もなく、たまに食事のモノと思われる甘い匂いが三人の鼻を楽しませる。
通り抜ける繁華街が今普段通りのにぎわいを見せていないだろうことが悔やまれる。
そして一軒の家の前で赤は止まる。
屋根は奇妙な具合に曲がり、壁は黒いカラーで奇妙なまだら模様やらと、なにやらおどろおどろしい大きめの家…看板には【お菓子の家】とかいてある。
「此処だ。」
入りたくない。住むのは魔女か統合失調症の患者か…
クズノハはシエルの背後に隠れて毛を逆立てていた。
しかしそんな都合は関係ない。赤は巨大で重厚そうな木の扉をギィと音を立てて開ける。
思いのほか扉は軽いらしい。たやすく開いた。
目の前に広がるのは少女趣味な薬屋さん。明るい色調、お菓子等をモチーフにした家具。棚に様々な色の小瓶が並んでいる。本当にお菓子のいえのようだ。
様々な薬はあるが主な商品はポーション
一言に薬といっても体内環境改善、強壮、爆発と言って様々な効果がある。特に魔法使い、錬金術師の使う紫ポーションは魔法以上の爆発力を持ち、危険物取扱甲種の資格が必要だ。
「あ、思ったよりは綺麗…」
クズノハは胸をなでおろす。外装は問題だが内装は問題ないようだ。
「あらあら…そんなに中が心配でしたかぁ?」
店の奥の唯一地味なカウンターの方から、ゆったりとした声が聞こえてくる。薬品棚が邪魔になり白いローブがちらりとみえただけだった。
「よっ♪白♪」
赤がいうと、すぐに彼女は薬品棚の陰から姿をみせた。
「そろそろローションが切れると思いましたよぉ〜♪」
白いローブを着た大人の女性が現れる。
赤の相棒たる彼女は明るい笑顔で迎えてくれた。
魔法使いが作る薬【ポーション】を主に扱う薬屋【お菓子の家】の店主はスノウ・ホワイト。
彼女もまた、この赤とともに、ワーウルフ族、ケットシー族を魔法と薬物を駆使し反乱を鎮圧した英雄であり…
名前やおっとりとしたたたずまいから【白雪姫】なんて呼ばれている。まぁ本当の姫よりは…ぬけている。
クズノハはすらりとした体つきでお尻が少し大きい、赤は全くの幼児体型。
対して白雪はローブに胸がパンパンに詰まっている。
シエルの背が165でクズノハも同じくらい…白雪の背丈はそれより10センチ近く高い。
「こちらが…王立魔導研究所のシエル・ローラックさん。
こちらがええと…奥山の里のクズノハさん。二人とも淫魔の研究のため、赤さんについていくのですね?」
簡単な自己紹介の後二人を指さしたり髪に触ったりしながら言う。赤は短くああと答えた。言葉遣いは丁寧な白雪だが、あまりにもあちこちをベタベタと触る。どこかで礼をみせればどこかで礼が崩れている。
「王立研究所の方…ちょうどいいですわ♪新しい薬が出来ましたの♪飲んでくださいませんか?自らに使っても客観的にはデータが取れませんし…」
ローブの中からなにやら可愛い熊の顔の形をした栓の瓶をとりだした。
中身は無色透明で水にも見える。
こんな液体はアカデミー時代に散々見てきた。猛毒よりも特徴がない弱毒の方が怖いと知らされている。
「赤さんは…ちょっとお使いを頼んでよろしいでしょうか?
酒場に色々取り寄せを頼んでおりますの。
ジャブジャブの羽など、貴女も必要になるものなので…すみませんが…」
「ん、ああ…じゃあクズノハ来い。荷物持ちは多い方がいい。」
赤はそっけなく言うとさっさとお菓子の家を出ていく、クズノハは何度か振り返るもすぐに赤の後を追う。後にはシエルと白雪姫が残された。
まじまじとシエルはポーションを見つめる。光にかざしてみるといくつかの水の層が細かく見える。何種類もの液体を、時間をかけて混ぜ合わせたようだ副作用が怖い。
「何の…薬なんですか?」
おそるおそる白雪に尋ねる。彼女はまじめな顔をして口を開く。
「淫魔に関わる薬ですの。これさえ飲めば…淫魔と同等になれますのよ♪モニターになってくださいますよね?」
シエルは瓶を睨んで少し考える。結局彼女に頷き、栓を外して飲んだ。
甘い匂いがした…
腰に手を当てて一気に飲み干す。幾種類もの成分の混ざった薬の正しい飲み方はラッパ飲みと昔担当教官がいっていた。実際にやると少し喉が痛い。
「どうですか?どうですか?」
「ぷはあ…なんか…体が熱い…体が、変な感じ…」
シエルの股間のモノが、服を破る勢いで大きくなっていく。
何やら体中があつく、むずむずして…一体何の薬だという疑問は吹き飛ぶ。
「大丈夫ですよ?すぐに慣れますから♪」
白雪は服を脱ぎはじめる。シエルは彼女の体は肉付きが良く…そして太くて大きいと思った。いつもならばここで、美味しい獲物と出会えたと喜ぶ。
しかし冷静さを欠いていてもすぐに、背に生えた小さな黒い翼に気が付き声を上げた。
「その姿…まさか淫魔?」
白雪の身体的な特徴は、一般的な淫魔【サキュバス】の姿に酷似していた。
本来ならここで薬を吐き出すところだが、全て飲んでしまった。
「ええ。貴女もすぐになれますわ。だって淫魔と同等に…淫魔になるのですもの♪気持がいいですわよぉ?」
彼女は穏やかな、しかし欲情に満ち溢れた笑顔でそういった。
その時シエルの胸中には、恐怖を感じる自分と淫魔の存在に歓喜する自分がいる。それをしっかりと感じていた。