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淫獄の救世主 第四話

 股間から白濁液を垂れ流し、呆然としている女二人をよそに、ゴブリン達は台所の横にある倉庫で食事を取っている。
 エフィーの焼いたパンを、うまそうにかぶりついていた。
 もちろん金など払わない。
 性欲を満たした後は、食欲を満たそうとする。本能に身を任せた獣の行動だった。
 
「刀華、起きてる?」

「…………ああ」

「ごめんなさい。こんな目にあわせて」

「もういい。エフィーのせいじゃない」

 この身に受けた屈辱は一生消えない。
 だが、犯されたことでエフィーを恨むつもりは一切なかった。
 エフィーはまた何か言いたそうに口を開きかけたが、首を横に振ってやめた。
 悲しげな表情を改めて―――。

「刀華。動ける? 逃げるなら今がチャンスよ」

「え?」

 痛む股間に顔をしかめながら、刀華は体を起こした。お腹の中がタプタプいっている。ゴブリンの精子が膣に溜まっているのだ。
 早く洗い流さないと……。
 ゴブリンたちはまだ食事に夢中だ。よほどエフィーのパンがおいしかったのだろう。
 たしかに逃げるなら今しかなかった。

「服を着なくちゃ」

 刀華はゴブリンが無理やり脱がした制服を見つけ、素早く身につけていく。
 しかし、Yシャツのトータルからバストまでのボタンがはじけ飛んでいた。ゴブリンが引きちぎったのだ。
 これではブレザーを着ても、胸の谷間が丸見えになってしまう。
 だが、この場ではどうすることもできず、刀華は我慢するしかなかった。

「刀華……こっち」

 エフィーは声を潜めながら、刀華をぶち破られた扉へと誘導する。

「このままここにいれば、ゴブリンの巣に攫われてハーレムの雌にされちゃう。
 そうなったらもう一生、モンスターの出産奴隷として生きるしかないわ」

「冗談じゃないな。……じゃあ早く逃げよう」

 幸いゴブリン達は倉庫にあった酒に手を出しているようだった。
 モンスターの中で頭が良くても、基本人間よりも数段知能は劣る生き物である。刀華たちが逃げ出すなどと毛ほども考えていないのであろう。

「ギャギャギャ。もうあの雌、オレのち○ぽの虜」

「巣に持ち帰る。まだまだ調教する」

 そんな馬鹿げた会話が聞こえてきた。

「でも、どこへ逃げるんだ?」

 刀華にはこの土地の何もかもがわからない。
 逃げると言ったものの、どこへ逃げていいのか全然わからなかった。
 しかし、エフィーは自信に満ちた目をしていた。

「解放軍のところへよ」

「なに? ここから近いのか?」

「二ブスレイの町の南区に拠点があるわ。西区のここからだと、いったん地下水路を抜けないとならないわね」

 二ブスレイの町はたった一つ正門のある西区、そして北区、東区、南区、そして中央区とに分割されており、
 区から区へ移動するには兵士の許可が必要らしい。

 しかしほとんどの場合、商人やモンスター、兵士以外は許可がおりないようになっている。
 そこで町の地下に張り巡らされた水路を通って、南区へ行こうという作戦をとったらしい。

「……水路にはモンスターはいないのか?」

 刀華は不安げに言った。
 いかにも暗くてじめじめした場所みたいで、図鑑に載っていたアメバスが住処にしてそうだった。

「もちろんうじゃうじゃいるわ。でも安心して。西区と南区を繋ぐ水路は重要だからって、リーゼロッテ様が兵を巡回させていらっしゃるから」

「重要?」

「ええ。西区はこの町で唯一外との交流がある場所だから。食糧やら生活必需品は西区でしか売ってないのよ」

「なるほど」

 補給上、絶対におさえておかないといけないポイントだってことだな。
 
「解放軍か……」

 リーゼロッテ―――その名はエフィーから何度も聞かされてきた。相当な組織力を誇る、女性リーダーらしい。
 解放軍は、このモンスターに支配された町で、モンスターに抵抗する術を持っていると、エフィーは言う。
 しかし刀華の不安は消えない。
 なぜならば、この町の兵は合計1000ほど。
 もしもモンスターが殺されれば、一斉に犯人捜査が始まり、犯人はほとんど処刑される。
 運良く助かっても、この町の調教施設に送られ、一生モンスターの肉奴隷として暮らさないといけないらしい。

(たしか洗脳されるのよね。そして……お尻に奴隷の焼印を押され、一生外れない首輪をつけられる)

 さらに二ブスレイの近くにある関所では、常時一万の大軍が、こちらを監視していると聞く。
 本当に大丈夫なのか? という思いは捨てきれない。

「さ、走るわよ!」

「あ、ああ!」

 エフィーの声に思考が止まった。

(解放軍。どんな組織なのかまだわからないが……)

 今の刀華たちには、救いが解放軍しか残されていないことは事実であった。



 

 刀華とエフィーはバッと外に出て、夜の町へまっすぐにかけ出した。
 しかし、運の悪いことに、ちょうどゴブリンの一匹がまた催したのか、刀華たちで一発抜こうと戻ってきたところだった。
 
「ギャギャ!? 雌いない! おい、待て!」

「どうした!? ゴブっ! いたぞ! 外出た! 追いかける!」

 刀華たちの背後で、ゴブリンが追いかけてきているのがわかる。
 自分の所有物だと思っていた雌が逃げた。これは雄のゴブリンにとって、かなりの屈辱のようだった。

 怒りの叫び声を上げて、小人とは思えないスピードで迫ってくる。
 何度も犯された刀華にとって、ゴブリンは恐ろしい化物で、知らず震えで膝が笑いそうになっていた。

「はぁはぁはぁ。―――っあ」
 
 股間から精液が漏れ出る。

(やだ。まだこんなにたっぷり……)

 一瞬、淫靡な気持ちが頭を支配し、足がもつれた。
 だが、余計な雑念を振り払い、刀華は駆け抜ける。

「そこを右よ、刀華!」

「わかった!」

 途中、売春宿から出入りする男女や人型モンスターの塊をくぐって、さらに東へとひた走る。

 路地裏でアメバスに卵を産み付けられている最中の女性を見たが、今は自分のことで精一杯だった。
 義にあつい刀華にとって、町の女性が襲われているのに助けられない今の自分は、情けないを通り越して絶望すら感じていた。
 もう犯されたくない!
 モンスターの子供なんて産みたくない!
 その一心でエフィーの後ろを走る。

「はぁはぁはぁ。見えたわ、刀華! あの小屋まで走って」

 鍛えていた刀華とは違い、エフィーはもう息絶え絶えのようだった。
 エフィーの指差す先には、廃墟みたいな小汚い一軒の小屋。
 どうやらあそこが下水道への入り口のようだ。背後をちらりと見るが、ゴブリンたちはかなり後ろの方で何か喚いている。

 このまま走れば、どうやら助かるだろう。
 そう安心していた。しかし―――。

「きゃあああああああ!」

「え、エフィー!?」

 やっと小屋にたどり着いて、ドアを押そうとしていた矢先のことだった。
 いきなり火球がこちら目掛けて飛んできたのだ。
 エフィーが足にそれを受けたようで、痛みで地面にうずくまっている。
 背後を見ると、ゴブリンたちが魔法を放ったようで、周囲の人々が一体何事だと騒然としていた。
 
「刀華、先に行って。この足じゃもう無理よ」

 エフィーが火傷をおった両足に回復魔法をかけながら、そんなことを言った。
 しかし、エフィーのお願いであっても、見捨てろなんてこと、聞けるはずがない。

「…………」

 刀華は黙ってエフィーの体を支え、おぶって小屋の中に入った。
 
「刀華!?」 

「私のことはいいから! このままじゃ二人共捕まって―――!」

「―――エフィーを見捨てるなんてこと、わたしにはできない! 恩人まで見捨てたら、本当に死にたくなってくる」

「刀華……」

 もうそれ以降エフィーは抵抗しなかった。じたばたせずに、刀華に背負われている。
 
「部屋の奥に隠し階段があるわ。急な螺旋階段だから落ちないよう気をつけて」

「わかった」

 刀華は女の細腕で、成人女性であるエフィーを背負いながら、ゆっくりと真っ暗な階段へ足を伸ばした。
 一歩一歩確かめて、ゆっくりゆっくりと降りていく。
 一段一段がまるで一時間のように長く感じた。ゴブリンの声はもう聞こえない。
 ただひたすらに足を動かすことだけを考えた。






 一方、その頃、西区裏通りでは―――。
 
「ぎゃぎゃぎゃ。あいつら、小屋入った」

「追いかけろ! 引きずりだして。また犯す!」

 まだゴブリンたちはしつこく刀華たちを追いかけていたのだ。
 しかし、なんとその道を阻む一人の女性がおり、ゴブリンたちは怒りの声を上げた。

「ゴフゴフ! どけ!」

「そこどけ! お前も、犯すぞ!」

 だが女性は動じない。
 ここでは女はモンスターの玩具も同じ。
 抵抗などできるはずがないのに、フードをかぶり、顔を隠している女は、口だけで嘲笑うように言った。
 
「いいからかかってらっしゃいな、お馬鹿さんたち」

 人差し指をクイクイっと動かし、モンスターを挑発する女。
 はたから見れば、ただの頭のおかしい人間だった。

 だが。

「この雌、馬鹿! こんな雌の子孫いらない。もういい! 殺す」

「殺す殺す殺す!」 

 激昂したゴブリンたちが、一斉飛びかかった瞬間だった。
 女性は腰に吊るしてある双剣を手にしたのだ。
 
「ゴフっ!」

「ゴブ!?」

 びっくりしたのはゴブリンである。
 まさか、この町で命の危険に晒されるなんてありえない。
 モンスターが主のはずなのに。

「はぁっ!」

 瞬時に懐に入り、一気に鞘から刃を抜き放つ。
 凄まじいほどの早業だった。
 そして―――フードの女性は何の躊躇もなく、ゴブリンたちを剣で攻撃したのだ。
 
「げはぁ!」

「げひっ」

 モンスターたちは憐れな断末魔をあげて、地面に倒れ伏した。
 
「フゥ……」

 その時、女性のフードが頭から落ち、顔があらわになった。
 金砂の長髪をツインテールにまとめ、育ちの良さそうな綺麗な鼻梁をフンと鳴らす。
 豊かではないが、スラリとした見事なプロポーションで、美しく真一文字に伸びたピンク色の唇が印象的であった。
 勝ち気そうな瞳で倒れ伏したゴブリンたちを見て、眉をしかめて剣をまた鞘に収めた。

「こんな下等モンスター……。即刻処分してやりたいところですけど、そうもいかないんですわよね」

 貴族のようなたおやかな見た目に反し、その言葉は恐ろしいほどの殺気に満ちていた。

「ぎゃぎゃ!?」

 と、その時、斬られたはずのゴブリンたちが、なんと無傷で起き上がったではないか。

「ごふっ。あれ? オレ、今まで何してた? っぎょほ、綺麗な女いる! 犯っ……さなくてもいいか」

「女! 犯す! ……あれ? ち○こたたない。どうして?」

 ゴブリンたちは、いつもなら涎がしたたるほど犯してやりたい美女が目の前にいるのに、全然関心がなさそうにして呆然としていた。

「ち○こ、たたない! これじゃ、巣帰れない!」

「たて! たて! どうしてたたない!」

 まるでそれは突然EDになってしまった、若い男性そっくりだった。

「アハハハハ! いつ見てもこの光景は最高ですわねっ」

 金髪の女性はゴブリンたちの滑稽な姿を見て、大声で笑った。
 その時だった。

「―――リーゼ様。お戯れはそのへんで」

 暗闇に口元を覆い隠した、小柄な黒装束の女が突然姿を表したのだ。
 鎖帷子の下、大きく膨らんだ胸と尻から、かなりのナイスバディの女性であると推測できる。
 しかし、それ以外は全て闇夜にまぎれて見えず、目がやたらと光っているのが、まるで猫のようだった。

「あら、メル。もう帰ってきたの」

「……騒ぎを聞きつけた兵士たちがこちらへ向かってきます」

「そう。それは大変ね」

 リーゼと呼ばれた女性は、散歩にでも行くかのような口調で答えた。

「それで、戦乙女とエフィーは無事でしょうね?」

「はっ。我が部下が密かに護衛し、今拠点にたどり着いたと報告がありました」

「そう。なら私達も帰りましょうか。戦乙女なんてわたくし会うの初めてよ」

 リーゼと呼ばれた女性。
 それはすなわちリーゼロッテ。
 ―――解放軍のリーダーに他ならなかった。 




第五話へ続く

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